ゴルトンボードと正規分布

釘の列に玉を落とすと、山型の分布ができます。玉を 1 個ずつ落とすときの落ち先は Binomial(n,1/2)\mathrm{Binomial}(n, 1/2) そのもので、段数を増やすと正規分布に近づきます。ここでは玉を 1 個ずつ早送りで落とす場合と、玉同士がぶつかり合うほど詰め込んだ場合を、χ2\chi^2 適合度検定で区別します。

1 個ずつ落とすときの厳密な分布

nn 段の釘を通る玉は、各段で左右のどちらかに 1/2 ずつで分かれます。右に折れた回数を XX とすると、落ちる樋の番号がそのまま XX です。

P(X=k)=(nk)2n,k=0,1,,nP(X = k) = \binom{n}{k} 2^{-n}, \quad k = 0, 1, \ldots, n

平均は n/2n/2、分散は n/4n/4 です。これは近似ではなく厳密な値で、シミュレーションはこの分布に一致しなければなりません。

盤面

玉は釘の上で跳ねる時間がばらつくため、各ティックで確率 0.5 で 1 段下に進み、そうでなければその場に留まります。1 つのセルに入れる玉は 1 個までで、行き先が両方とも埋まっている玉は進めません (この状態を橙色で描いています)。

12 段
1 ティックごと

投入 0 / 500 個、到達 0 個、盤上 0 個、詰まった回数 0

2 つのモードの分布

下のグラフは 4000 個を最後まで落としきった結果です。灰色の棒が厳密な二項分布、破線が正規近似です。単発は棒にほぼ重なり、干渉ありは中央が削れて裾が持ち上がります。

4000 個

厳密な検証

観測度数 OkO_k と、厳密な二項分布から決まる期待度数 Ek=N(nk)2nE_k = N \binom{n}{k} 2^{-n} を Pearson の χ2\chi^2 統計量で比べます。期待度数が 5 未満の樋は隣とまとめてから計算し、母数を推定していないので自由度は (まとめたあとの区間数) 1- 1 です。

χ2=k(OkEk)2Ek\chi^2 = \sum_k \frac{(O_k - E_k)^2}{E_k}
指標理論値単発干渉
平均6.0005.9605.944
分散3.0002.9563.756
最大 CDF 差00.01650.0397
χ2\chi^2 統計量13.4157.5
自由度1010
pp0.20431.08e-28
詰まった回数00840
判定 (有意水準 1 %)棄却できない棄却

単発は pp 値が大きく、二項分布と矛盾しません。干渉ありは玉数を増やすほど pp 値が 0 に落ちます。「別シード」で何度引き直しても、この向きは変わりません。

なぜ干渉すると崩れるのか

二項分布が出るための仮定は、各段の左右が確率 1/2 で、しかも互いに独立、という 2 点だけです。玉が詰まると 空いている側にしか行けない ため、その 1 回の分岐は確率 1/2 ではなくなり、しかも「どちらが空いているか」は他の玉の位置で決まるので、独立性も同時に壊れます。

混雑は中央で最も強く起きます。玉が集まるのは中央だからです。結果として中央から押し出された玉が裾に回り、分布は二項分布より平たくなります — 分散が n/4n/4 より大きくなるのがその現れです。投入間隔を広げるほど詰まりが減り、分布は二項分布に戻ります。

なお、釘の上での滞留そのものは分布を変えません。滞留は「いつ着くか」を変えるだけで「どこに着くか」は変えないからです。滞留がなければ全部の玉が毎ティック 1 段ずつ落ち、同じ段に 2 個並ぶことすらありません。滞留は、玉同士を出会わせるための仕掛けです。

二項分布から正規分布への誤差

段数を増やすと二項分布は正規分布に近づきます (de Moivre–Laplace の定理)。整数 kk を区間 [k1/2,k+1/2][k - 1/2,\, k + 1/2] とみなす連続性補正を入れて、両者の CDF の最大差を測ったのが下の表です。

P(Xk)Φ ⁣(k+1/2n/2n/4)P(X \le k) \approx \Phi\!\left(\frac{k + 1/2 - n/2}{\sqrt{n/4}}\right)
n最大 CDF 差n × 最大 CDF 差
84.125e-30.0330
161.663e-30.0266
328.637e-40.0276
644.258e-40.0272
1282.113e-40.0270
2561.063e-40.0272
5125.302e-50.0271

右の列がほぼ一定なので、誤差は 0.027/n0.027 / n 程度で減っています。Berry–Esseen の一般の評価は O(1/n)O(1/\sqrt{n}) ですが、p=1/2p = 1/2 の二項分布は左右対称で歪度が 0 なので、Edgeworth 展開の 1/n1/\sqrt{n} 項が消え、連続性補正と合わせて O(1/n)O(1/n) まで速くなります。

ここで使った Φ\Phiχ2\chi^2 の上側確率は、どちらも不完全ガンマ関数 P(a,x)P(a, x) の級数と連分数から倍精度いっぱいまで計算しています。検証する側が別のシミュレーションになっていないという意味で、この表は厳密です。

ランダムサンプリングの収束の速さそのものについては Monte Carlo 収束比較 も参照してください。